「服の値段」を忘れてファッション経験値を上げる方法(AnotherADdress And Fashion )

【今月のゲスト】

 田端竜也さん(大丸松坂屋百貨店 アナザーアドレス事業 事業責任者)


西 ゆり子(以下、西):
本日のゲストは、田端竜也さん。大丸松坂屋百貨店が2021年から展開しているファッションサブスク「AnoterADdress/アナザーアドレス」を立ち上げられた方です。魅力的なブランドの服を毎月借りられるという楽しいサービスはどんなふうに生まれたんでしょうか。

田端 竜也(以下、田端):
僕は入社以来、新規事業を担当してきましたが、本当に新しいといえる事業ってなかなかない中で、百貨店はアメリカの新しいビジネスモデルを取り入れてきた歴史があります。なかでもシリコンバレーでは新しいビジネスがどんどん生まれていて、当時「レント・ザ・ランウェイ」「ル・トート」といったファッションサブスクがぐんぐん成長し、とても惹かれました。でも、最初は社内で「売る」と「貸す」を百貨店が同時にやる抵抗感はまだまだ強かったです。

西:
そうかもしれませんね。そこをどうやってひっくり返すことができたんでしょう。

田端:
数年間日米を行き来するなかで、現地のスタートアップの人たちが〝Change the life. Change the world″という言葉を合言葉のようにしていて、命がけで新しいことに挑戦する姿にものすごく刺激を受けました。自分がやることが人の生活を変え、世界を変えることを本気で信じている。スタバでお茶していても「お前のチェンジ・ザ・ワールドは何なの?」のようなシビアな話になる。もしも自分が世界を変えるなら? と考えた時、これまでほとんど全員が所有していたものを、「こっちは買った方がいいけど、こっちはみんなでシェアして使う方が良い」を当たり前に使い分けるという発想に着眼したビジネスモデルは、20年後30年後にきっと一つの主流になる、と考えました。そこからもともと好きだったファッションの分野でサブスク、シェアリングをするする「アナザーアドレス」を導き出しました。社内も新しい消費の形を提案する必要に迫られていたので、少しずつ賛同してくれる方が増えてきました。


西:
ここ十数年で日本人の着る習慣も変わりましたよね。

田端:
そうですね。僕自身も若い頃好きなデザイナーズブランドとかありましたけど、ずっと追い続ける「玄人」になるには、正直なところ壁とか難しさがあった。しかしファストファッションだけでいい、と頑なにファッション離れするのももったいない。

西:
そういうお悩みをよく聞きます。

田端:
アナザーアドレスのユーザーは都内の集合住宅に住む30代~40代のカップルが多いのですが、日本の住宅事情を考えると、マンションの収納には限りがあり、特にお子さんがいたら物は増やせない。夫婦とも忙しくて服をじっくり見る時間もない。一着一着がそれなりに高額だから、商品知識の蓄積も簡単じゃない。みなさんファッションを楽しむのに空間や時間、もちろん経済的な部分もさまざまな悩みがありますよね。

西:
私たちの世代は、着る物や持ち物で自分のキャラクターを固めていたところがあって、それがプライドにもつながっていた。私は車も大好きでこだわって選んでいたけど、息子の代になったら、車はいらないって言われて(笑)。若者たちの所有の感覚が変わってきたなと痛感しました。いっぽうで従来のファッションレンタルって、卒業式や久しぶりの同窓会とかのために一生懸命「衣裳」を探すイメージだったでしょ。ファッションってそこじゃないし、なんか不自然な気がして自分の中に抵抗があった。

田端:
レンタルとシェアって、似ているようで違うと考えています。例えばレンタカーはどこかに行くのが目的。旅行の手段として車を借りようという発想です。一方でカーシェアはというと、所有していないだけでふだんから車移動の手段を持った生活だと思う。アナザーアドレスも巨大な無限クローゼットのあるライフスタイルを提供しているイメージをしています。

西:
なるほど。非日常のための「貸衣装」と、日常のための「ファッションサブスク」の違いとも言えますね。

田端:
NYでサブスクの実店舗を訪ねたんですが、一軒家形式で、朝6時頃からニューヨーカーがスッピン・パジャマの格好で来て、本当に自分のクローゼットみたいに使っていた。そこから今日の力を借りる服を選んで、そこにはママ友もいて、コーヒー飲みながら子供の話したりとか。

西:
生活に溶け込んでいますね。実店舗ではないですが、アナザーアドレスのお客さまも日常使いの方が多いですか?

田端:
そう思います。また、実際のお客様で、今日は子供の発表会とか旦那さんの実家に行くとか、1年過ごしてたらたまに出てくるセミオケージョンごとに、ちょっとだけ前を向きたいから服の力を借りる、という方もいらっしゃいます。ファストファッションで毎日は暮らしても、いい服を着る機会も諦めない。賢い使い分けですよね。

西:
そういうの、楽しそうだし素敵。あと、なんといってもアナザーアドレスの場合は自分で服を選べるのが大きいですね。他のファッションサブスクの多くは、大まかな傾向は指定できても届く服は本人の意思とは直接関係ない。生徒さんが「これ届いたので着てみました」っていうのを何回か見ましたが、本人の意思や楽しみがそこに感じられない。なんか違うな~と自分の中でファッションサブスクは一度却下してしまったの。でもアナザーアドレスは自分でアイテムを指定できる。なおかつ私たちみたいなファッション業界の人間も良さを知っているマルニ、メゾンマルジェラ、マックスマーラみたいな一流ブランドが選べる。やはり母体が大きいと信用もあるしこんなことができるんだなと。

田端:
着る学校の生徒さんも上手に使ってくださっている方が多いと聞いています。

西:
生徒さんたちは学んだ知識をいかして、あれこれとチャレンジしたいけど、高い服を失敗したらその後どうしていいかわからない思いがある。あと、家から店舗が遠い方は海外ブランドにあまり馴染みがなかったけれど、アナザーアドレスで借りて着てみたら、こんなに色の発色も違うし、こんなに着心地がいい。そんな、言葉で伝えきれない実体験をしてくれている。協働できて、本当に良かったなと思うんですよね。変身して本人の自信につながるのはもちろん、多分、一年後に選んでいる服は大きく成長しているでしょう。逆に多すぎて困るという声はあるのかしら。

田端:
多いですね。10万着から選びなさい、となると人間の能力の限界を超えてしまうので、そこはシステムの力を使って優先的に普段気に入っているものを前に出してさしあげるなど、できるだけ見やすくするのが僕らの役目だと思って改善しています。もちろん最終的に選ぶのはあなたです、というのが原則ですが。
僕、西先生に本当にすごく共感したのが、着る学校は服を選んであげるんじゃなくて、料理のようにお洋服のさしすせそ、素材・バランス・色なんかを「選べる力をつける」ことを応援する場所だと。その通りだと思って。そうなった時にストレスなく様々な服にチャレンジする手段がアナザーアドレスの役目だと感じています。お客様がいい意味で失敗を恐れなくて済むように服の値段という「ノイズ」を取り除いて選びやすい環境を作ったり、選ぶストレスを減らすイメージです。

西:
まさに着る学校が何ができるかって言えば、自分らしく選んで着る力を伝えること。私たちスタイリストはデザインもしないし、お洋服を作ったりもしない。ご本人が好きなものを選んでご本人らしく着る方法をお教えできたら一番いいのかなと思うんです。

田端:
アナザーアドレスではWEBマガジンもやってるんですけど、服の知識面までは伝えづらいところもあって。着る学校で先生方から授かった知識を生徒さんが実践に移す時、服のための空間・時間・費用をアナザーアドレスが補完できる。そう考えると、着る学校とアナザーアドレスは、なんか相性がいいなって思います。西さんご自身は、どんなふうに使いこなしてくださっていますか?

西:
今年の流行にチャレンジする時かな。この春は大人パステルが流行ると言われていますから、今回はパステル縛りでいくつかお借りしてみたの。トレンドを意識してアナザーアドレスで借りたバターイエローのパンツには、パウダリーピンクのトップスをあわせてみました。

西校長が選んだバターイエローのワイドパンツ(M・fi/トリアセテートワイドパンツ)


パウダリーピンクのトップスと


西:
さすがに私の年代だと、20代、30代が着るのと違って全体がボケて見えがち。いま、さて何をどう料理するか、たとえばモカブラウンを合わせたらどうかな? と思案中。でもね、全アイテム買ってたらすごい大変だったけど、アナザーアドレスのおかげで新しいことに挑戦しやすくなる。田端さん、ファッションサブスクで更に目指していることはありますか。

田端:
先日、タワーマンションのロビーに400着の服を持ち込ませてもらって、住民の方々に実際に服を見て触れてもらうイベントをやり、とてもいい機会でした。どういう形かはまだこれからですが、アメリカで体験したような、多くの人に無限クローゼットを体感する実店舗を作っていきたいと思っています。その時にはアドバイザーとしてスタイリストの方々の力もお借りするかもしれません。

西:
ぜひご一緒したいです!サービスのさらなる発展を心から楽しみにしています。


➡︎ 「AnoterADdress/アナザーアドレス」WEBサイト
➡︎ お得なコラボ!基礎コース受講者は「アナザーアドレス」のスタンダードプラン(月額12,430円)が1ヶ月間無料


<< Profile >>

田端 竜也 / Ryuya TABATA(大丸松坂屋百貨店 アナザーアドレス事業 事業責任者)

2011年に株式会社大丸松坂屋百貨店に入社。持株会社のJフロントリテイリングにてグループ全体のデジタル化やオープンイノベーション組織の立上げ・運営を推進。シリコンバレー駐在から帰任後に、2020年にアナザーアドレス(AnotherADdress)を起案し、2021年3月に社内ベンチャーとして事業ローンチ。



着るレッスン「基礎コース」受講生募集中!

➡︎ 着るレッスン「基礎コース」とは?

➡︎【2025.4〜6月開催/第9期】基礎コース 受講生募集中!

※一般クラス(隔週土曜日・午前 開催)に加えて、キャリアファッションクラス(隔週火曜日・夜 開催)を新設しました!


オンライン説明会は、ご希望に応じて随時開催いたします。ご希望の方は、下記ページにお進みいただきお申込みください。

➡︎ 「基礎コース」オンライン説明会について

着る学校(校長・西ゆり子)

着る学校は、「スタイリング=着る力」を学ぶコミュニティ(登録無料)。『着るを楽しむ!着る力が身につく!』をコンセプトに、様々なレッスンを通じて、おしゃれの知識や情報を知ることができます。現在、6,000人以上の女性が登録。洋服を楽しむのに年齢は関係ありません。人生100年時代、私たちと一緒におしゃれをもっと!もっと!!楽しみましょう。

0コメント

  • 1000 / 1000