西 ゆり子(以下、西):
上原芳恵さんは、人気の靴ブランド、VEGEの代表としてプロデュースをされています。ご自身でブランドを立ち上げようと思われたきっかけは?
上原 芳恵(以下、上原):
私は文化服装学院のシューズデザイン科を卒業後に靴業界に入って、おもに百貨店に入っているハイブランドやコレクションブランドのOEM、ODMを請け負っていたんです。でも、靴売り場にいても黒や茶色の似通った靴ばかり......。中敷きもベージュばかりで、靴が大好きなのにときめきがない。「無難」「工数が少ない」を何より優先する業界の事情が透けて見えたというか……。確かに効率は良いけど、それってお客さん目線というより作る側の都合じゃないだろうか、もっと履く人に寄り添いたい! 楽しくて履き心地が良い靴を作ってみたい!!と思うようになりました。西さんは4年前の初めての展示会に来てくださいましたね。
西:
その時、気に入って買ったのが、NHK「あさイチ」に出た時に履いていた赤いスケルトンパンプス。デザインがとんがってるのに履き心地がよくて驚きました。
上原:
その直後にコロナ禍が来て、次の展示会は会場を借りて自信作を揃えたのに、なんと来場者ゼロ(笑。それでも「あさイチ」で西さんが靴を紹介して下さったのをきっかけに、オンラインショップでも商品が動き始め、色々なポップアップストアの出店にもお声がけいただくことが増えました。デザインとクオリティ、価格のバランスに気づいてくださる方がいらして。面白かったのは、靴に詳しいインスタグラマーの方が、「この靴はいい」と記事を上げてくださったんです。そしたら後日、三越伊勢丹のバイヤーさんから「〇〇さんが推薦していたメーカーは御社ですか?」と連絡をいただきました。メジャーな百貨店筋にも信頼の厚い方だったんです。
(写真提供:VEGE/商品詳細)
西:
いい話! 「本物は裏切らない」って本当ね。でも作る過程は一筋縄ではいかないでしょう?
上原:
はい。履き心地に納得するまで自分たちで何度も試しますし、サンプル完成までに手直し10回なんてザラです。VEGEは前例がないこだわりを採用した靴も多いので、職人さんに断られてしまい、海外のハングリーな会社に頼んでやっと実現したこともあるんですよ。
西:
ところでこの夏は街中どこもかしこも足元は厚底かスポーツサンダルでしたね。
上原:
いまや年代に関係なく、靴はどこかしら楽ちん要素がないと響かないですね。
西:
見た目のためにガマンしない時代ね。
上原:
この秋も依然としてスニーカー人気が続きそうです。弊社もスニーカーが売り上げの約6割を占める勢いです。
西:
着る学校の生徒さんたちも、VEGEのスニーカーにカラーソックスという人、多いの。
上原:
それって西さんスタイルですよね(笑)。広めてくださって有難いです。西さんとコラボで開発したスニーカー「Cheerio」は、シンプルできれいに履きこなしやすいけれど、ソールがイタリアのビブラムで、さりげなくエッジも効いております。
(写真提供:VEGE/商品詳細)
西:
別に生徒さんたちに、私の足元を真似しなさいと指導しているわけじゃないんだけど「私も赤いソックスにチャレンジしました!」「今まで履いたことなかったけどソックスは楽しいです!」って、みんなスニーカー+差し色の楽しさにハマってる。大人の女性が入門で買うスニーカーは黒か白のシンプルなものをお勧めしてます。できたら専門知識を積み重ねている靴屋さんが作ったものがいいと思います。洋服ブランドさんが作るものは、デザインは良くても、使っていくうちにやっぱり違いが出てくる気がして。その辺は自分の中でこだわりかな。
上原:
スニーカー以外では、柔らかい素材のローファー。きれいさを求める方は、ちょっと特徴のあるビットが付いたものとかおすすめです。ローファーも、プラダで火がついた厚底が再び来てますね。スタイルアップ効果も狙えるし、色々なお洋服に合わせやすいから。この秋は甘めの服にマニッシュな靴というのもトレンドですね。
(写真提供:VEGE/商品詳細)
西:
ダボッとした服にボリューミーな靴、という流れが何年も続いたけれど、最近服もじわじわスレンダーに戻りつつありますね。たとえばリブ編みのニットがリバイバルしたり。そうすると靴も様変わりするかも。最近はバレエシューズもまた復活しているし。とはいえ、人にやさしい靴を求める流れは変わらないと思う。
上原:
余談ですが、私ずっと国産車を愛用していたんですが、最近実家が車を買い替えまして、ワーゲン・トゥーランを運転させてもらったら、シートのあまりの違いに衝撃を受けたんです。トゥーランは座った時の「守られてる感じ」がハンパなくて。それは本当の履き心地の良さとか、すべてのものづくりにも共通するかもしれないですね。
西:
車も靴も、人が中心で、人のために作られてるからでしょうか。服も同じで、日本の服はかなり高級ラインでも縫い代は1センチ弱だから、もし5センチ太ったらもう着られない。ヨーロッパのいい服は3センチくらいぬいしろがあるから、6センチ太っても修正できて、しかもやせたら元に戻すこともできます。
上原:
日本では服も靴も、どんどん使うサイクルが短くなっている気がします。VEGEにとってのサステナブルって1シーズンで捨てたくなるようなものを作らないこと。効率のための大量生産はせずに、こだわりのものを小ロットで作り、売り切ること。再生素材も使うけど、そこだけにフォーカスしすぎると、色やデザインの面白みの点で限界があります。
西:
繰り返し履けるというのがいいことよね。
上原:
そうですね。レザーはサステナブルじゃないという人もいるけどそれは違う。食べた食肉の副産物でもあるし、合皮よりリペアもしやすいんです。実際、合皮だと保護クリームものりませんし、3年ほどで加水分解、つまり溶けてきてしまいますから。
西:
そういうことを若い人にこそ知ってほしいな。モノがあふれているから、必要なのは自分の頭で考えて、長い目で愛せるものを選んでいくことですよね。広告に振り回されないで、私たちも賢くならないとね。
(写真提供:VEGE)
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上原 芳恵 / Yoshie UEHARA
VEGE代表 株式会社fishoe代表取締役。
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