西 ゆり子(以下、西):
このニットは、エルマンノ・シェルヴィーノで、なんと素材がレースなんです。派手でしょ?
河毛俊作(以下、河毛):
いいじゃないですか、ロックな雰囲気で。
西:
70代はシンプルにと思って、本気で断捨離を始めたんです。家を処分して賃貸に、洋服も1m幅のクローゼットに収めたくて1枚2000円で売ったら、飛ぶように売れんですが、なぜかこの一枚だけ戻った(笑)。これも縁かと思って一生付き合おうかな、と。河毛さんは、とても着やすそうなクルーネック。
河毛:
いつでもどこでも着られるタイプ。バトナーのものです。
西:
素材はカシミアでしょう? やっぱりこれに勝るものはないかも。
河毛:
ニットらしいニットですね。服の中でもニットは好きですね。それも決まったものが好きで、着ているのはだいたい無地か畔編み。
西:
個人的にどのあたりにこだわってるんですか?
河毛:
最近ニットのサイズ感は、流行も手伝ってややルーズが主流ですが、ものによって大きめとジャストサイズと、二枚持ったりします。ジャケットの下に着るときは、ルーズだと”もたつく”から。IVYっぽい着方の時はタイトめですね。
西:
考えてみたら私たちけっこうラッキーな世代かも。初めて河毛さんと出会ったウン十年前は、ラルフローレンとかきちんと着ていらしたわよね。その後ピタピタがつらくなってきた年代に、ちょうどルーズ系がトレンドになってくれた。そのトレンドをうまく着こなしていれば、楽に素敵なおじさん素敵なおばさんに見えるわけ。
河毛:
あと、丈のバランスを崩すのもお洒落に見えたりする。
西:
まさに今日の河毛さんだ!
河毛:
少し前まではニットの下からシャツの裾が出るようなのはありえなかったですよね。
西:
ただのだらしない人になっちゃったりして。
河毛:
そのバランスをちょっと壊すのがお洒落に見えるんだけど、自分がうまくできてるかどうかはわからないし、ふだんスーツで過ごしている人にはお勧めしたいようなしたくないような。ある程度以上の年配者が、バランスを崩したお洒落をするのはハードルが高いですね。モードの人なら下に着るものが上の服より丈が長いのはごく普通だけど。
西:
特に男性は一朝一夕に雰囲気を変えられない。たとえ今日の河毛さんどおりに着ても、即座にカッコよくはならない。河毛さん自身は、誰かに着こなしを習ったわけではないですよね。
河毛:
でもたまにモード雑誌とか見ます。僕にとってモード誌を見るのは、今はこれがオーソライズされたというか、権威のある人がそれでよしって言ったんだな、みたいな意味合いですね。
西:
ドリス・ヴァン・ノッテンなんか、テイラードのジャケットを半袖にして、いやいやコレはないだろうと思うけど、偉い人がいいと言えばいいのね。
河毛:
ドリス・ヴァン・ノッテン自身が偉い人じゃないですか(笑)。
西:
ハイゲージはあまり着ないですか。
河毛:
タートルネックくらいです。タートルはジジイになるとジャケットインとして便利なんですよ。
西:
そうですね。そこそこお洒落に見えるしどこへでも行ける。私はブリティッシュ系が好きで、アーガイルやフェアアイルを本当に上手に着こなしている男性がいると、ハッとします。あまりお目にかかれないけど。
河毛:
フェアアイルもアーガイルも難しくて、日本人が着るとなんかヘンなコスプレ感が出る。
西:
子供みたいなのよね。歴史を背負ってないから?
河毛:
日本のトラッド愛好者には、長年コスプレっぽい着こなしを貫いている人もいる。フェアアイルにボタンダウンに蝶ネクタイとか。非難を恐れずに言えば、ある種のコメディアン感が出るような。
西:
昭和のコメディアン、確かにバタフライ着けてる人が多かったけど。
河毛:
あまり主流ではないけど、ラルフローレンとかオーソドックスな店では必ず季節になると出ますけどね。
西:
フェアアイルもGジャンと同じで、一生に一枚気に入ったのに出会えればいいと思ってるんです。
河毛:
結局その配色が気に入るかどうかですね。
西:
アーガイルは一つ間違えるとオッサンになったり学生になったり。
河毛:
アーガイルのセーターはうまく着るとすごく色気があるんだけどね。あれも配色ですね。オーソドックスなのはライトブルーに黒に赤に白。IVY全盛時代のイメージ。
西:
綺麗ね。
河毛:
それかグレーベースにえんじと紺とか、グレーベースに紺とか。何枚か持っている中で、しばらく着なかったけど最近ちょっといいなと思うのは、ブラウンに近いベージュに黄土色と紫。大昔のプリングルのものですが、ヨーロッパ的でいいなと。エレガントに着たいけど機会がなかなかなくて。それこそアスコットタイとか合いそうです。うまくすれば昔のデヴィッド・ニーヴンとかケイリー・グラントみたいな。まあ、本来ああいう人たちに似合うものだから、日本のオッサンには似合わないんだよ。
西:
でも、これだけ洋服文化になってるんだから、若い人たちには新旧いろんな服に挑戦してもらいたい。新しい服が高すぎるなら、古着屋さんで見つけてもいいし。
河毛:
それはいいことだと思うけど、フェアアイルでもアーガイルでも、「ボトムは何を合わせれば?」「あ、デニムでいいっすよ」になるじゃないですか。いいけど、そこで止まっちゃうとそれ以上行かないんだよね。フェアアイルもスエットもおんなじことになる。
西:
本来の着こなしが出来て、そのうえでデニムまで行けたらすごくいいですよね。
河毛:
良くも悪くもデニムはすべてを受け入れる包容力があるから。色落ち具合と色目とサイズ感に対するセンシティブささえあれば万能ですから。
西:
デニムのブルーって本当に素晴らしいからね。濁ってもいないし澄みすぎてもいない。でも、それ以外も体験してほしい。
河毛:
日本の男性にニットって、難しい。
西:
うん。ニットというより「毛糸のセーター」になってる。
河毛:
仕事に着て行けないわりに高価だし、いいものはクリーニングだ、毛玉ができた、とケアも大変だったり。そこに費用や愛情を注ぐ気になれないのかもしれない。
西:
そうかもしれない。
河毛:
むしろ昭和30年代の文学者、太宰治みたいな顔の人が分厚い毛玉の付いた首が短めなタートルセーター着て、ひざの抜けたツープリーツのウールズボンに下駄みたいなほうが、カッコいい。
西:
〝頓着しない男″の素敵さね。
河毛:
森雅之みたいな人が着そうな。あの時代のモノクロ映画に出てくるセーターって大体そういう感じですよね。その上にどてらとか着てる。
西:
そうそうそう。
河毛:
いかしてるよね。むしろあの雰囲気に戻ったほうがいい。
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<河毛さん>
バトナ―のニットの上に羽織ったのはエルメスのコート。マフラーはロロピアーナ。デニムはリーバイス。
<西さん>
エルマンノ・シェルヴィーノのポップなニットにSINMEのピーコート、1970のパンツで颯爽と。ちなみに断捨離後に残したニットは、マックスマーラのシンプルなクルーネック、そしてミドルゲージとローゲージのタートル各1枚だそう!
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