#M011 Tシャツは思い出を背負っている


西 ゆり子(以下、西):
今日はフォトTですね。おしゃれ!


河毛俊作(以下、河毛):
昔から写真家のブルース・ウェーバーのフォトTシャツが好きなんです。今は色々なブランドが手がけるようになりましたけど、さきがけはアニエスベーだったと思います。80年代の終わりか90年代の初めころ、野口 強さんが現場に着てきたのを見て「それいいね」と買ってきてもらった。チェット・ベイカーの写真がプリントされていて、いまでも持ってます。ネットで見ていたらとんでもない値段がついていて驚いた。

Tシャツを大別すると、このフォトTみたいにイベントやチャリティにちなんでいるカルチャーT、ミュージシャンのロックT。あとはUCLAなんかに代表されるカレッジもの。校名入りとかスポーツのチームで作ったりする。それに企業ロゴなんかを入れたノベルティTシャツもありますね。


西:
あとは本当の下着としてのTシャツ。もとはといえばそこから始まっているから。私が今日着ているのは、まさにそれ。すごく薄手でワンピースの下に重ねるからそれでいいんですが、一枚で着たらほぼほぼ透けてるというか。


河毛:
子供のころ親に着せられたのは、「メリヤス」と呼んでいたよね。

西:
メリヤス編み。懐かしい響き。


河毛:
下着だから首元が少しUネックになってた。外着じゃなくて下着なんだけど、子供だから暑くなると脱いじゃって、Tシャツやランニング一枚になって遊んでた(笑)。


西:
学校から帰ってそのまま「わーっ!」てね。あのUネックがちょっとダサかった。昭和の風物詩ですね。Tシャツっていうと思い出すのが、山口雅俊さんというプロデューサーに言われたこと。「西さん、ドラマで使うTシャツはきちんとロゴを読まないとだめだよ」というの。私たち、ついデザイン優先でカッコよければそこに書かれた外国語の意味まで考えなかったりするじゃない。でも、「Under Construction」ていうのが文字通りではなくて「美容整形の途中」という意味に受け取られたり、思わぬことが起きるから。


河毛:
「中絶反対」みたいな政治的メッセージが胸に書かれていることもある。BITCHやFUCKならさすがに日本人にも悪い言葉だってわかるけど、なじみのない下ネタのスラングもあるから危ないよね。他番組で、理由は忘れたけど実際に問題になったことがあって、そのTシャツの文字にボケボケにボカシを入れて何とか放送できた。


西:
デジタル加工や編集のやり直しも大変だけど、撮り直しはもっと大変ですものね。

河毛:
外国人は昔も今も漢字Tシャツが大好きだけど、一度「残尿感」っていうのを嬉しそうに着てる人がいた(笑)。


西:
アハハハ。だから逆もしかりですよね。

河毛:
男のTシャツでいちばん様変わりしたことは、ジャケットの下にTシャツを着るのに抵抗がなくなったこと。一昔前は上着の下に丸首というのはどうしてもアウトロー感があったけど、今は自分自身、好きとは言わないが受け入れている。これもジェンダーがクロスしあう今の世の中の影響かと思います。女の人はジャケットの下に衿のないものを着ることがままあって、あれが男の着こなしのひとつとして侵食してきたのかな、と。


西:
最近、若い男の子が妙に胸元が開いたTシャツを着てたりしますよね。個人的にはTシャツってなるべく原形に近いほうがカッコいいと思うんだけど。

河毛:
それこそクロスジェンダーの影響ですね。女性服のディテールが男性の服にも入ってきている。

あと、Tシャツの高級化が進んだのは確かですね。以前ここでも話したアルマーニ自身が愛用する紺のTシャツはシルクカシミアで数十万円するのが有名ですけど、最近はベーシックなコットンのTシャツも高い。マルジェラとかマルニの3枚5万円のパックTシャツとか。


西:
フルーツオブザルームだったら2枚で2千円くらいよね。


河毛:
下着としてブルックスブラザーズの白いTシャツはずっと買い続けているけど、3枚6千円くらいかな。


西:
私はY’sの白とグレーをずっと買っていて、確か3,900円くらい。ぴったり着るタイプのTシャツはそれに決めてます。ねえ、河毛さんTシャツは何枚くらいお持ちなの?


河毛:
正確にはわからないけど100枚くらいはありそうです。


西:
Tシャツって、その年によってぴったりくる大きさが違うでしょう。


河毛:
そうですね。シーズンごとにフィット感が変わるから、あれこれひっぱり出してみて、合いそうなのを選んでます。

西:
だから白いTシャツ10枚あっても、10枚とも「これじゃない」ことってありますよね。黒のタートルネックと同じかもしれない。アームホールの太さとか袖の長さとか、何かが毎年微妙に変わる。

河毛:
あと、衿のラインの違いは大きい。だから、結局毎年何かしらTシャツは買うことになる。


西:
買うところは大体決めてるんですか。

河毛:
なんとなくね。たとえばイギリスのSUNSPEL(サンスペル)。もともと下着を作っていたブランドで、あそこのTシャツはなかなかいいと思います。原宿にお店がありましたけど、今は閉じて伊勢丹やセレクトショップ扱いになりました。

西:
私はずっと買っているといえば先ほどのY’sと、ダブルスタンダードのSov.ですね。Y’sは本当に着心地が楽ですし、Sov.はメンズもあって、あそこのTシャツはきちんと着られて好きです。Hanesは、使ってるうちによれるでしょ。そういう生き方を好む人にはヨレも粋なんだけど、私たち、もうお顔がきっちりヨレてますから、着るものはきちんしたほうがいいな、と。そういう意味でsov.は大人向き。でもね、私はみんなに試着試着というけど、自分がTシャツ買うときは試着しない。だから時々失敗する(笑)。


河毛:
うん。試着はしない。失敗を苦にしないタイプだし。


西:
買ってみて今年はこのサイズ感か~、と思うと、そのシーズンには結局着ないこともある。


河毛:
でも何年か放っておくと、またよくなったり。


西:
そうそう。


河毛:
Tシャツって、高くなったとはいえ服の中では安いから、無茶できてしまう面白さがある。8千円か、とりあえず買っちゃえ! みたいな。それこそブルース・ウェーバーの写真展に行った時、すごい種類のフォトTが揃ってて、全種類買いました。


西:
すごい!!さすが。


河毛:
着倒してよれよれになりましたけど、やっぱり捨てられない。カルチャーTのいいのはそこですよね。プリントが薄く消えかけて昔のポラロイド写真みたいになっているんだけど、捨てられないというのはあります。Tシャツって、スーツなんかとはまた違って一種の思い出みたいなところとつながっている。


西:
本当にそうですよね。

河毛:
「あのTシャツを着ていた夏」というやつ。下着から派生した服だけど、Tシャツはその人の人生の一部を背負っているんですね。


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<河毛さん>

ブルース・ウェーバーのフォトTシャツはアダム エ ロペ ワイルド ライフ テーラーで購入。カーゴパンツはラルフローレン、GジャンはCIOTA。アディダスはあえてタンを出して清潔感の中にワイルド味のある履きこなし。


<西さん>
Y’sのTシャツとモスキーノのボタニカル柄のドレスを重ね着。ドロシー・シューマッハの短丈シャツで今年のバランス。

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着る学校(校長・西ゆり子)

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