#M005 ルーズとタイトで「カジュアルアップ」が大人バランスの掟


西 ゆり子(以下、西):

着こなしのベースとして、バランスに気を配っているかいないかは、お洒落かどうかの分かれ目になると思うんですね。


河毛 俊作(以下、河毛):

シルエットを考える時、いちばんのベースはクラシック寄りかモード寄りか。そして、モード=ランウェイには驚かせるという要素が必ずある。だから大前提として、モードってバランスが悪くてナンボなんですよね。


西: 

そうですよね。奇妙でナンボ。


河毛: 

「え、ちょっと待ってよ。その提灯みたいなの着てどこ行くんだ!」と言いたくなるような。


西: 

それがなぜかそのうち「美」に変わってくるわけよね。


河毛: 

アンバランスの美がモードの大前提だから、バランスのいいモードというのは、言語矛盾だとも言える。

現実の世の中を見ると、男の服装のバランスを決めているのは、実は靴も含めた下半身だと思います。腰ばき全盛の時代はその最たるものだったけど、パンツをゆるっとさせると、足元がデカくないとバランスがおかしい。だから一時期多かったのが、わざとサイズの合わないデカいスニーカーを履いてる男たち。


西: 

いましたね! 靴を自分サイズ+1センチにする人たち。ということは、パンツが細くなると靴もおのずとスリム化されるのかしら。


河毛: 

それが不思議なところで、パンツの細いスーツが流行った頃のコーディネートは、ステファノ・ブランキーニ(STEFANOBRANCHINI)とかスクエアトゥのコバの張りだした靴を合わせていた。むしろ、バブル時代の肩パッド入りソフトスーツの時代ほうが靴は華奢で小さかったですね。ブランドで言うとラリオの靴とか。その後、アメカジの人たちの間でゴツい靴が定着して、それこそ木村(拓哉)くんが履いたレッドウィング(REDWINGSHOES)のブーツとか、エンジニアブーツとか、「ゴツい靴でバランスをとる」というのが長い時間軸での傾向じゃないかな。


西: 

あの頃、ヘアスタイルも長いのが流行したから、髪型とのバランスもデカ靴のほうがとりやすかったかもしれません。

男性も、七三分けにハードなブーツはそれこそバランス悪いですね。


河毛: 

「ゴツい足」全盛にはスニーカーブームも関与してる。ますます厚底になって、主張が強くなっているでしょう。


西: 

下半身のボリュームを増やすと全身が安定して見えますよね。顔が小さく見えるし。


河毛: 

このバランスが完全に廃れることはないでしょうね。それはいわばアメカジがこの世から消えるみたいなことだから。


西: 

上半身で言うと、ジャケット。グッチは今年肩が張ってますね。


河毛: 

ここしばらくずっとショルダーはナチュラルが主流だったと思うんですが。


西: 

バルマンみたいな肩とはまた違いますが、キャサリン妃がパンツスーツを着て話題になったアレキサンダー・マックィーン(ALEXANDERMcQUEEN)なんかも肩が戻ってきてますね。


河毛: 

でも、肩パッドは流行ったとしてもやはり一時的なものかなと思います。日本人は特になで肩の人が多いから、パッドが入ってる方が少し立派というかエバれる感じになれるのかもしれない。


西: 

河毛さんご自身のバランスのポリシーは?


河毛: 

人からどう見られるか、というより自分の中でのバランス観はありますね。


西: 

それは個々きっとありますよね。


河毛: 

いっとき服が非常にタイトだった時代がありましたね。丸の内あたりで、車引きみたいなパンツでツーブロックの人たちが闊歩していた。セレクトショップのスタッフが嘆くことには、お客さんたちがやたらとパンツを細くしたがって、わたりを全部詰めたいというそうなんです。でも今はそれなりに少しゆとりがあるシルエットが主流ですよね。僕は背が高くないから裾はややテイパードしているほうがよくて、わたりはある程度余裕があって、股上も少し深めが好きですが、このあいだ鏡で自分を見たら田舎のヤンキーみたいでした(笑)。


西: 

あははは。そんなことないでしょ!


河毛: 

ジャケットとパンツはほぼ2パターンですね。ボクシーなアイビー系か、ちょいブリティッシュか。ブリティッシュはウエストがわずかにシェイプされていて、丈が長めでサイドベンツで。三つボタンにチェンジポケットが好きなのでチェンジポケットつきで。それ以上に攻めた服は着ないですね。最近は、らくちんパンツもありです。


西: 

えっ、河毛さんもお持ちなの?


河毛: 

去年から、緩いパンツけっこう穿いてます。ゴールドウィン(GOLDWIN)が、なかなかカッコイイ服を作ってるんです。コラボも上手で、楽だし手頃だし。


西: 

ゴールドウィン、機能性にも富んでいますよね。前に買ったギャザースカートが、さっと手で雨を払っただけで水滴が落ちるので、すごく楽でした。


河毛: 

これだけ雨が多いと撥水性の高いパンツでないと。ゴールドウィンのは10分で乾く。夜遊びもやめた今、正直、日々何を気にして服を選んでいるかと言えば、気候だね。


西: 

(深くうなずく)


河毛: 

伊達の薄着とか、反対に暑くてもジャケットを着るとか、今はとんでもない。今日一日快適に暮らすには、何を着たらいいか、という思考回路です。気温や、雨が降る降らないとか。年を取るとこんなに天候が敵になるとは! 


西: 

気候が変わってきたからこそ、若者たちもよりイージーなシルエットを着るようになった。


河毛: 

この夏、片手で小さい扇風機を顔に当てて、もう片手でスマホ見ながら歩いてる若者を見るたびに「転んでしまえ」と言いたくなって困った(笑)。エレガントでないことをエレガントに見せかけたり、お洒落じゃないものをお洒落に見せるのにブランド側も必死な時代ですね。


西: 

人々の美意識はどこに行くんでしょうね。


河毛: 

そのあたりをうまく新しい方向に作り上げていると思うのは、よく言うことだけど日本のクリエイターのもの。海外のメゾンブランドでこれはというものは最近本当にない。マルジェラ(MaisonMargiela)くらいかな。いつも不思議なリアルとモードのせめぎ合いをやっているから。ベースはリアルな服なんだけど、そこに再構築というのか、変なことをする(笑


西: 

いいものは作っていますよね。


河毛: 

このあいだも、試着した服が、結局買わなかったけど面白かった。すごく巨大なポケットが付いている。お店の人によれば、ガリアーノは最近ガーデニングに凝っていて、ハサミとか道具類を入れられるアイテムが欲しくて作ったらしい。ジョン・ガリアーノ(JohnGalliano)もガーデニングか、と。


西: 

ある意味、自然体な人ですよね! 話戻りますが、気候もこれだけ変わったから、カジュアルの奔流のなかでどう自分で納得するかは大事ですね。


河毛: 

そう。難しいのは、気候や世相、いろんな意味でカジュアルダウンなんでもありの時代を自分なりに咀嚼しながらも、じゃあ銀行員もTシャツジーパンでいいとなったら、世界がつまらなくなるような気がする。もっとも、自分がいるテレビや映画の世界は、どれだけカジュアルダウンしても何も文句を言われないところですけど。


西: 

確かに。ただ、私は河毛さんの現場を何度もご一緒しているけど、結果的にカジュアルダウンではなくてアップになっているんじゃないかな。これは私の持論ですが、年齢が上がるに従って、カジュアルダウンしすぎてはいけない。つまりアイテムはカジュアルでもきちんと見えるように着こなすのが、年寄りの使命。だらしないの二乗、ではなく、そこは洋服で上げていかなくては。


河毛: 

年取ってだらしないと、ぶっちゃけ汚いんだよね。人に不快感を与えちゃいけないから、本当、着ぐるみ着たいくらいだよ。


西: 

アハハハハ。でも、現場の河毛さんはたいていダウンジャケットやデニムだけど、それがきちんと見えるところがすごいな、と。それは育ちなのかセンスなのか、私の中では永遠の謎です(笑)。



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スナップキャプション

<河毛さん>

ジャケットは神宮前のセレクトショップ「Bryceiand’ s」のもの。メタルボタンと色で紺ブレに見立て、ブルックス(BrooksBrothers)のオックスフォードBDシャツ(ラウンドカラーが心憎い……)とトム・ブラウン(ThomBrowne)のタイを合わせた。下半身はややリラックスフィットのパンツ、締めはオールデンのローファー。快適さときちんとした印象のカジュアルアップバランスが完成。


<西さん>

全体をIラインシルエットでまとめたスタイル。カーディガンはサポートサーフェス(supportsurface)、スカートはエッセンシャル(Essentials)。ヘビロテ中のマルニ(Marni)のソックスはカーディガンとお揃いカラー。ローファーはVEGE。「ソックスは1センチの丈の違いで印象が変わるので、色々試してみてください!」

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着る学校(校長・西ゆり子)

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