西 ゆり子(以下、西):
河毛俊作さんは長年の仕事仲間であり、私にとって“センスの師匠”のような存在。このレッスンはいわば河毛さんの特別ゼミで、ずばり大人の男性がどうしたらカッコよくいい感じになれるか聞いていきます。私自身も聞きたいことがいっぱいあります。河毛さん、ここ数年の猛暑で、男性の夏服もひたすら楽な方向に向かってますね。
河毛 俊作(以下、河毛):
身も蓋もなく言ってしまえば、今の服装は何でもありの時代だから、特に暑い時期はスエットにビーチサンダルでも驚かなくなった。僕自身、たまさか自由業に近い立場ということもあって、普段の仕事着は今日みたいに軍パンにTシャツだったりする。その対極にあるのがスーツとかジャケットだけど、最近はビジネスマンもリモートワークで、ノージャケットが増えました。
西:
河毛さんは公私問わず1年のうちのジャケット率ってどれくらいですか?
河毛:
せいぜい20%くらいじゃないかな。でも僕は少し天邪鬼なところがあるから、ときどきみんながダラダラの格好で来そうな場所に、わざとピシッとしていったりする。
西:
そう!だから現場のみんなは大変ですよ。「ヤバい! 監督があんなにしゃきっとした格好で来たのに、自分たちは……」って緊張が走って、河毛さんはしてやったり、みたいな。
河毛:
いやいや(笑)。でも、僕の中では必ずしも背広=仕事着とは考えていない。たとえば背広で行きたい場所の筆頭は、ホテルのバー。少し背筋を伸ばして、場の雰囲気に合わせたい。それはカジノに行くのにタキシードを着る感覚と似てる。なにも、遊びに行くのに正装する必要はないんだけれど(笑。
西:
ドレスコードも年々ゆるくなっていますしね。
河毛:
マカオのカジノはまさにそれ。みんなスウェットに短パン。でも007の「カジノロワイヤル」の世界には、やっぱりタキシードが似合う。
少し脱線しますが、僕の大好きな小説家の樋口修吉さんは、慶應義塾大学を出て三井物産で商社マンを10年ほどやった後、作家になるんですが、この人が正真正銘のギャンブラー。ヨーロッパのカジノで大勝ちして、帰国後その足で大阪のジャンジャン横丁に向かい、そこでも賭け将棋や賭け麻雀に明け暮れた。カジノの儲けを全部失って、西日の当たる大阪の下宿に残ったのは一着のタキシードだけだった、というエピソードがある。
西:
へえー。
河毛:
タキシードがないとヨーロッパでカジノに入れないから。なんてお洒落な人なんだ!と思った。何が言いたいかというと、背広を着ること=何かに拘束された辛いこと、という思い込みを捨てたほうがいい。
西:
同感!あと、ユニフォームとか制服って思わないほうがいいですね。自分時間の背広というか。
河毛:
自分自身が背広姿でいたい場面はどこか、あらためて想像力を働かせてみるといいですね。それが犬の散歩でも、蕎麦屋に行く時でもいい。麻の背広を着て蕎麦屋に行くというのはいい。
西:
ああ、それはきっとステキ。
河毛:
一杯飲んでそばを手繰る時に、スウェットの上下でいるのとは、何かしら気分が変わるんじゃないだろうか。
西:
ところで夏背広・夏ジャケットのネックは、暑さ対策よね。
河毛:
まず生地は、コードレーン、シアサッカ、マドラス の御三家が見た目の清涼感もあっていい。この手のジャケットは僕ならインポートじゃなくて日本製を選びます。海外のきちんとしたブランドのものは、総裏地で見た目に反して涼しくない。
西:
そうか。ヨーロッパは湿気がないから、彼らの辞書には「背抜き」の文字はないものね。
河毛:
それでも暑くてかなわないという向きには、下半身を短パンにする手があります。
西:
なるほど。暑さはやわらぐ?
河毛:
かなり違う。大人がショーツを選ぶ時はあまり短いものは避けた方が無難です。クラシックな バミューダショーツはIVY世代には懐かしいし,今年なら,グルカショーツが気分ですね。ゆったりとしたシルエットでプリーツが入ったり,共地のベルトが付くなどディテールが面白くて、スリム過ぎる若者より、むしろ身体にもゆとりがついてしまった大人のほうが似合う気がします。カーゴパンツの夏版と言った感じかなあ。色はカーキやベージュが基本。同系色のTシャツを着て,麻のジャケットでも羽織れば良い雰囲気になると思います。
西:
お勧めの靴はありますか。
河毛:
たとえば グルカサンダルは、きちんと感も残しつつ涼しいのでお勧めです。
西:
メンズのお洒落なサンダル、増えましたよね。私がカッコいいと思うのは、ジャケットに短パンときたら、レースアップシューズかな。
河毛:
僕なんかはそのあたり怠けてほとんどローファー履いちゃうんですけど、いずれにしても素材はコードバンみたいな重々しいのは避けます。意外に夏に合うのがバックスキン。あえてブーツを選ぶなら、クラークス のサンドベージュのブーツだと軽く見えます。バンプシューズとか、エスパドリユもいい。
西:
シャツはどうしてます?
河毛:
半袖派です。ブルックスブラザーズの半袖のボタンダウンをずっと愛用しています。半袖にネクタイはダサい説もあるけど、僕は全然そう思わない。
西:
そこのところ、うちの家訓はちょっと違っていて。台襟がついてる場合、袖にはカフスが付いてこそシャツだから、シャツ襟の時は必ず長袖を選びなさい、って息子たちには教えてました。
河毛:
そういえば昔のブルックスの半袖シャツに、半袖なのに袖にカフスが付いたものがあった。
西:
ニール・バレットもカフス付きの半袖シャツを作ってたわ。そういうデザイナーのこだわりって面白い。
河毛:
いずれにしてもシャツは、最近ゆるめのシルエットが主流だし、見た目も、暑さ対策としてもあんまりジャストサイズじゃなくて風が通るくらいがいいね。
西:
ジャケットインにTシャツを着るのは昔ほどじゃないかしら。
河毛:
ジャケットの形があまりにビジネススーツっぽいものだとさすがにキツいけど、メンズのジャケットも今はカーディガンぽかったり、ジェンダーレスというか自由になった。
西:
肩もアンコン(アンコンストラクテッド)でパッドを入れないタイプが増えました。
河毛:
ショルダー下がってるしね。そういうタイプのものこそ、Tシャツ合わせでいけますよ。
西:
個人的な興味で聞くんだけど、河毛さんが好きなバーはどちら?
河毛:
今なら帝国ホテル か、東京會舘。
西:
わかる。東京會舘のバーはなかなかあなどれないですよ。
河毛:
あそこのバーはフードがすごく充実しているし、とても美味しい。
西:
リニューアル後も変わらず美味しいですよね。
河毛:
三島由紀夫の好きだったシーフードピラフとかね。僕は今風のラグジュアリー感が好きじゃなくて、外資系のホテルバーには行かないんです。
西:
自分と同じような生き方をしてる人のそういうジャッジを聞くと、
自分自身の選択肢にすごく参考になります。
河毛:
ホントに知ってるところにしか行かないから。バーと床屋は、変えると面倒くさいです。一からやりなおしになるから。
西:
河毛流夏ジャケットスタイルの男性と出かける女性は、どんな服がいい?
河毛:
アーウィン・ショーの世界じゃないけど、共布のベルトが付いた、膝丈より下のワンピースなんか、素敵ですね。
西:
そうね、わずかにAラインで裾が風になびく感じ。決して身体にはりつくシルエットじゃない。
河毛:
ボディコンシャスではないね。サッカー地やギンガムチェックが合いそう。コムデギャルソン なんかにありそうです。
西:
ギャルソンの中のベーシックなラインで、見つかりそうですね。
河毛:
それに籐のバッグなんかを持てば、街の中にいてもちょっとしたリラックス感が漂う。
西:
そんな雰囲気で二人でバーに行ったら素敵。ファッションで世界をつくるのは楽しいことよね。
河毛:
クオリティ・オブ・ライフというと大げさだけど、服と、過ごす時間の質はけっこう密接に関係がある。それは高いものを着るか安いものを着るかというのとは別のものだと思うよ。
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河毛俊作さん・スナップキャプション
3年ほど前から愛用している軍パン/ブランド不明
Tシャツ/サンスペル
カーディガン/メゾンマルジェラ
靴/アディダス(以上すべて河毛さん私物)
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