キャリアの階段を上る時、いい服はかならず背中を押してくれる(Work And Fashion)

【今月のゲスト】

木村恭子さん
日本経済新聞社 ライフ&ビジネス人財・教育ユニット ヒューマンキャピタルラボ所長 兼 編集委員



西ゆり子(以下、西):
今日は日本経済新聞社の編集委員、木村恭子さんをお迎えしました。

木村恭子(以下、木村):
かつて、私がなんとしてもお会いしたい憧れの3人の方のお1人が西先生でした。ある方の紹介で、8年くらい前に引き合わせていただいて。

西:
昨年は、木村さんが立ち上げた日経の「女性の社外取締役育成講座」に講師として呼んでいただいたのよね。


木村:
この講座は社内の新規事業募集で、私自身が企画立案して採択されたものなんです。私は男女雇用機会均等法の第1世代なのですが、日本のジェンダーギャップ指数は教育と健康では成果がめざましいのに経済と政治分野が低く、G7でも低位安定のまま。長年新聞記者として訴え続けても状況は変わらない。大学で教えていても、「先生、新聞記者になるとお布団干せるんですか?」「自炊ってできるんですか?」とか、女子学生からの質問も私たちの学生時代と何も変わっていない。ペンを執るだけでなく、もっと直接的に手触り感があることをやってみたいと思ったんです。

西:
受講生はどんなプロフィールの方たちが多いの?

木村:
40代前後の方は、執行役員や部長職経験者が中心ですね。役職に就くときに社内研修でリーダーシップの訓話くらいはあるけれど、経営の実際を学ぶ機会は意外にないので、経営をギュッと集中的に学びたい方が多いです。50代以上は、すでに社外取締役に就任されている方はリスキリングとして、未経験の方の場合は、これまで専門職で来たけれど、今後のキャリアを見据えて経営の視点など、今から色々勉強しておきたい、という方が多くなります。

今は副業として社外取を認める大企業もあって、社外取を経験することで経営全体を見わたす経験値にもなります。日本の場合、事業ごとの縦割りが根強いせいか、自分の守備範囲を超えた経営なんておぼつかない、ちゃんと勉強しなくては、という謙虚で真面目な方が多いんです。学んだからには生かしていただきたいですから、企業とのマッチングにも力を入れています。西先生に講義いただきました一期生でミラノから講座に参加してくれた方は、最近キー局の社外取に決まりました。

西:
それはすごい。

木村:
今は、有名な学者だ、元アナウンサーだ、といった要素以外に、その人が社外取に入ることで、会社にどんなメリットがあるのか、時には株主を巻き込んで突き詰めた議論になります。ですから、ご自身が何を売りとしたいかアピールする必要があるのですが、なかなかできてない人も多いのが現実。キー局の社外取に決まった彼女は、少しのインプットで選ばれるためのマインドセットをすんなり受け入れることができましたし、社外取の面接に備えて何点かコーディネート写真を送ってきて「どれがいいでしょう?」と意見を求める熱心さもありました。社外取になることは転職と違って、外部からいきなりその会社の役員となるわけですから、会計学の知識もMBAも水準以上の人が多い中で、自分をどう表現するか、最後の味付けがいかに大事かということを痛感しています。

西:
その段階では服も名刺代わりなのよね。

木村:
その通りだと思います。社外取として選んでもらうためには、ファッションが大事な場面はあります。海外ではファッションや所作の重要性は当たり前に理解されていて、カマラ・ハリスも、脚の組み方ひとつから訓練したと言われていますし、海外の学会では日本人は小さいので、握手の時から身体の表現、服装が大事になるそうです。日本人の中には「その場にふさわしい」という表現を勝手に「皆と一緒ならいい」と読み取っていますが、ふさわしさの定義が違いますよ、と言わなくてはと思いました。

西:
あと、多いのが「ブランドの服さえ着ていれば」という人。他にも縫製がいいからというだけで身体に合わない高価な服を着ている人もいて、もったいないなと。それを着て、没個性じゃなく際立って見えるか、本当に自分を表現できているか、もっと考えて欲しいな、と。

木村:
日本は就活にしても、驚くほどデザインも色も一緒ですものね。TPO(時・場所・場面)を守る=人と同じ、没個性の言い訳になってしまっています。そもそもTPOという単語は和製英語。日本初のオリンピックの東京オリンピックが1964年に開催されるのにあたり、ブランド「VAN」の創業者の故石津謙介さんが「海外から日本にくる人々に失礼が無いような服装をしよう」と、TPOを提唱しました。欧米でいう(1)フォーマル(2)スマート(3)スマートカジュアル(4)カジュアルの四段階のドレスコードを、時と場所、場面によって使い分ける――といえます。

西:
セーフティで服を選んでいたら、人生もそうなっちゃう! このことは本当にそう感じています。ましてや社外取を目指すなら、5年後10年後は自分が日本を変えていくって思わないと。

木村:
社外取は、セーフティじゃなくてチャレンジです、ステージを変えるわけですから。ファッションもぜひあれこれと挑戦してほしいと思います。昨年のレクチャーの時、先生が借りてきてくださったサンプルのお洋服を着たら、身長とか体型にかかわらず、受講者もおしゃれに見えて盛り上がっていました。気付きを得てもらうのも講座の一つの目的だったので、よかったと思います。やはり服は大事だし、ある意味、早い。それこそ、スタイリストがドラマの中の役柄を表現するために衣装を選ぶように、私たちもちょっとしたコツを学べば、すぐにマインドチェンジができる。

西:
ドラマの世界では、わかりやすくその登場人物のキャラクターを服で作っていきますからね。そして、木村さんがおっしゃるように、この「ドラマスタイリング」という手法は、ドラマの中だけではなくて、私たちの日常のファッションにもすごく効果的です。「ドラマスタイリング」のコツを学んでマインドチェンジできれば、社外取でも、事務職でも、パートでも、主婦でも、状況に応じて、服でなりたい自分になれるんですから。

木村:
そういえば、着る学校にキャリアファッションのクラスができたそうですね。

西:
基本的に教えることは一般クラスも、キャリアファッションクラスも一緒です。キャリアファッションと言っても、エグゼクティブを対象としているのではなく、仕事服に悩むあらゆる方を対象としています。だって、働いている人にとって、仕事服でいる時間ってものすごく長いじゃないですか。その多くの時間を「TPO」という言葉に縛られて、無難で没個性な服で過ごすのはつまらない。つまらないどころか、無難な服しか着ない人は、仕事も無難になっちゃうと思うんですよね。きちんと仕事服でも自己表現できれば、必ず仕事のパフォーマンスにもいい影響が出ると思っています。

木村:
同感です。

西:
キャリアファッションクラスを受講している生徒さんのなかに、5年ほど前に購入した、今のバランスとは違うスーツを着てきた方がいたんです。その方には、ジャケットのボタンをはずして着てみて、とアドバイスしました。それだけでバランスが変わって、いい感じになったの。

木村:
もちろん彼女は次回買うスーツはバランスを考えると思いますが、今持っている服でも素敵になるアドバイスをくださるところが先生らしいです。センスと言ってしまうと簡単ですけど、ちょっとしたアドバイス、袖をたくし上げるとか、そういう指導で私たちはやる気が出ます。

西:
スタイリストは服を作りだすわけでも縫うわけでもないですけど、そこにある服を上手に着こなすというのが私たちの仕事だから、非常に簡単なことなのよ。そのスーツの方は、実はそれ以外にも大きな発見があったの。

木村:
発見ですか?

西:
これまで、男社会に飛び込んで経営者になった彼女にとっては、仕事でジャケットを着るということは必須だったんですね。だけど、仕事服の着こなしを学んだことで、ジャケットを着なくても相手に失礼じゃなく、経営者のファッションとして素敵でいられることがわかりました、と。「ジャケットを着ない社長が誕生しそうです」という発言が出て、嬉しかったですね。

木村:
カトリーヌ・ドヌーヴのメイクも手がけられたヘアメイクのEITAさんがユーミンの言葉を紹介してくれたんです。「この歳になると、キャリアも名声もあるせいで、考え方が煮締まりがち。発想が煮締まらないようにしないと」と。それ、大事ですよね。固執せずにもっといろんな栄養を吸収できる自分でいたいなと。

募集告知
日経の「女性の社外取締役育成講座」
受講生募集中(7月5日開講/6月30日募集〆切)

募集要項は下記のリンクから。9月27日に西先生が登壇予定です。➡︎https://school.nikkei.co.jp/feature/hr/contents/nikkei_joseishagaitori_complete/202507


1980年代の就活の服選びの時に早くもカラー診断を受け、バブルだった政治部記者時代はジャンフランコフェレのスーツで徹夜も日常茶飯事。今日は、先日校長と一緒に購入した水玉のブラウスで。



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 7月の1Dayレッスン「スニーカー」活用術

 日 時: 2025年7月17日(木)20:00~21:00(60分)

 形 式: オンライン授業(セミナー形式)

 講 師: 山下 由(Stylist)

着る学校(校長・西ゆり子)

着る学校は、「スタイリング=着る力」を学ぶコミュニティ(登録無料)。『着るを楽しむ!着る力が身につく!』をコンセプトに、様々なレッスンを通じて、おしゃれの知識や情報を知ることができます。現在、6,000人以上の女性が登録。洋服を楽しむのに年齢は関係ありません。人生100年時代、私たちと一緒におしゃれをもっと!もっと!!楽しみましょう。

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