#M022 男のジュエリーは「飾り」じゃない


河毛俊作(以下、河毛):
最近、各ブランドが男たちにもジュエリーを売ろうとして、たわけた謳い文句もときどき見かけます。でも、男が本気でジュエリーをつけた時代となると、ルイ14世くらいまで遡る必要がある。


西 ゆり子(以下、西):
絢爛豪華なロココの王族スタイルね!

河毛:
自分が生まれてこのかた、当たり前だけどそんな時代はなかったわけで、記憶の中のメンズジュエリーと言えば、カフスボタンかな。

西:
懐かしい! 昭和を感じますね。

河毛:
昔はタイピンとセットで、よく女性が男性に贈ったり、お礼の品としたり。デザインは微妙なのも多くて、子供ごころに「妙なカフスボタンだな。なんでこんな変なの……」と思っていた(笑)。

西:
以前に比べてお店でカフスのコーナーって目立たない気がしません?

河毛:
需要がないから。だって、ダブルカフスのシャツ着て、カフスボタンをつけて、脱ぐ時はまた袖口からはずして。面倒なのは確かだよ。でも今見ると、カフスってなかなかいいものです。

西:
カフスボタンを片方だけ外すと、その重みでカフスがぺろんとなるじゃない。あれはあれで、男の様子としてなかなか素敵。

河毛:
色っぽい景色ですよね。着たり脱いだりの手間の過程にも美しさがある。イヴ・モンタンなんかの映画を見ていても思います。

西:
普通の貝ボタンでは出せない風情よね。

河毛:
カフスボタンは、だいたい親父の形見のなかから自分にも合うようなゴールドとかシルバーのシンプルなものだけ残して使っています。せいぜいイニシャル入りくらいで石入りはないですね。自分で買ったのはほとんどなくて、ティファニーのシンプルな玉みたいなデザインの銀のものくらい。

西:
私も息子が高校卒業の時に、ティファニーのビーンズのカフスを贈りました。

河毛:
金属以外だと、シャルヴェ(CHARVET)の組み紐でできたのも、品が良くて軽くていい。スーツを着る人が少なくなるにつれてカフスも下火だけど、もっと見直されてもいいんじゃないだろうか。

西:
カジュアルな方向だとネックチェーンとかかしら。

河毛:
自分の場合、見せるというよりお守り的な感じですね。ドッグタグ(認識票)アレンジのものもあったけどいつの間にか失くしてしまった。

西:
クロムハーツは何年くらいの付き合いですか。

河毛:
‘90年代にユナイテッドアローズで出合って、なんとなく惹かれたんです。なんでもいちばん最初に輸入したのはコムデギャルソンらしいけど。あと、カジュアル系ではゴローズも一世風靡しました。木村拓哉さんが着けてさらに人気が爆発した。

西:
インディアンジュエリーね! 私もハマった時期ありました。イヤリングは必ずターコイズ×シルバーだった。

河毛:
羽根モチーフとかね。

西:
羽根も大好きで、ターコイズにラピスラズリに珊瑚、何個作ったかわからない。一組だけ残して人にあげてしまったけど。でも女性と男性はハマり方も違う。極論を言えばメンズの場合時計ひとつで充分な気もしちゃう。すべての指にクロムハーツをつける勢いだったカール・ラガーフェルドみたいな人は別として、男性も女性もなるべく数を減らしてそれで自分が引き立つなら、それがベストな気がします。男性のジュエリーって、自分の中のこだわりとか、自分の歴史の上に立って選んだんだな、という感じがカッコいい。つまり河毛さんとクロムハーツのウォレットチェーンみたいな関係ね。

河毛:
財布は落とすものだから、チェーンは超実用ですよ。飽きて何かに変えようという発想はない。 


西:
私、前は大事なジュエリーを失くすと「どうしよう私の大事なダイアのブレスレットが!!」って大騒ぎだったんだけど、ある時、担当してた女優さんに「西さん、それは役目を終えたのよ」って言われて、以来受け入れるようになれたの。

河毛:
うん。僕も「いなくなったな」という感じで、探すこともしない。

西:
そういう気構えというか、心持ちでいたい(笑)。

河毛:
身に着けるジュエリーではないけど印象的だったのが、カルティエの美術館で見たチャーチルが息子に贈ったシガレットケース。封書みたいに自宅の住所、切手と消印までが入ったデザインで「お前は忘れっぽいから書いておいたよ」という意味らしい。ウィンザー公がシンプソン夫人と旅行した国々を世界地図上にすべて宝石で記したボックスというのもありました。

西:
素敵。そういうのがいいよね。

河毛:
それこそ西さんのおっしゃる一つのヒストリーがある。たんにお店に入って、これください、つまりお店側にのせられたヒストリーじゃなくて。

西:
自分の歴史の一部ね。そこまでのスケールは無理でも、初めてパリのカルティエで買った指輪とか、記憶に刻まれているものは大切にしますよね。

河毛:
初めて働いて買ったものとかね。「思い」があるからこそ、ジュエリーが大切な意味を持つんだろうね。


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お知らせ

今夏、河毛俊作監督が演出を手掛ける連続テレビドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系)の制作が発表されました。脚本・宮藤官九郎、W出演・小池栄子&中野太賀という豪華な布陣。ぜひご覧ください!

制作発表記事

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連載「男の服と、いい時間」は来月から休載させていただきます。また秋以降に再開予定ですので、お楽しみに!


着る学校(校長・西ゆり子)

着る学校は、「スタイリング=着る力」を学ぶコミュニティ(登録無料)。『着るを楽しむ!着る力が身につく!』をコンセプトに、様々なレッスンを通じて、おしゃれの知識や情報を知ることができます。現在、6,000人以上の女性が登録。洋服を楽しむのに年齢は関係ありません。人生100年時代、私たちと一緒におしゃれをもっと!もっと!!楽しみましょう。

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