シャツってなんとなくいいものですね。シャツを買うと幸せな気分になる。Tシャツにはない何かがある。
西 ゆり子(以下 西):
そうですね。襟付きのシャツを着るとシャキッとする。
河毛:
山田太一さんの「シャツの店」というドラマがありますが、「シャツ」という言葉は、何か特別な意味を持つのかも。
西:
河毛さんのシャツコレクションはすごそう。
河毛:
店が開けるほどあります。直近40年分のもの大半を今も持っていますから。
西:
それはすごい!
河毛:
一番古いのは、1980年代のブルックスブラザーズのボタンダウンシャツで、ボタンの数やタグが今のものとは微妙に違います。あとエルメスの古いドレスシャツとか。普通に考えるとシャツって捨てやすいものじゃないですか。
西:
捨てやすい! 私、引っ越し前の断捨離で手元に残したのが、今日着てる「19.70」の白シャツ1枚なんです。まさに河毛さんの本のタイトル『一枚の白いシャツ』(新潮社刊)よね!
河毛:
なぜか捨てずに生き残るシャツってある。ブランドでは一時期のマルジェラのシャツや、初期のジルサンダーのシャツ。
西:
わかります。最初の頃のジルサンダーのシャツはよかった。
河毛:
1990年の半ば、日本で初めて青山に店が出来た頃は、ジルサンダー本人がデザインしていた。
西:
コム デ ギャルソンほどとんがっていなかったけど、メッセージというか主張を感じました。
河毛:
今に続くモードのひとつの嚆矢と言えますね。面白いのは、初期のジルサンダーは、どこかIVY風だった。衿が詰まって三つボタンでストンとしていて、それまでのアルマーニ的なゴージャスさと対照的。クリーンでシンプル、シャツも然りでした。
西:
「俺を見てくれ」からミニマムに、世界ががらっと変わった感じがしましたね。
河毛:
最近、シャツは再評価というか、幅が本当にひろがった。前はシャツの下にタートル着るなんて人はいなかった。
西:
黒タートルの上にシャツ着ちゃうのは業界人ぐらいだったけど、最近ごく普通よね。考えたらウールの上に木綿ってヘンなんだけど。
河毛:
ひとつの理由は、温暖化でしょう。ジャケットのかわりにTシャツ+襟付きシャツで、夏場もたいていのオケージョンをカバーしてしまおうという考えですね。昔はシャツ一枚だと〝何か忘れてる感″があったけど、意識が変わった。オーバーで着るタイプも、スクエアシルエットやAライン気味の白衣風丈長などなど。軍物ふうなジャケットでさえ最近はシャツ生地で軽く涼しく仕立てたりする。
西:
イージーなファッションの波はもう後戻りしないから、シャツもいまやデニム並みの便利アイテムで、ジャケットにもワンピースにも、なんならパジャマにもなっちゃう。これからシャツはどうなるのか、そもそも残るのかしら?
河毛:
そのうちボタン留めるのはタイパ悪いとか言い出したりして(笑)。でも、最近海外なんかで、シャルヴェの上質なドレスシャツをあえてタイなしでデニムでさらっと着ていたりするのはちょっと新鮮に見える。同じことを日本ですると、何故か何かを間違えた人に見えがちだけど。
西:
何かが違うのよね。
河毛:
色々話したけど、やっぱりヘンなシャツは着ないほうがいいよね。ボタンホールのかがり糸に色がついていたり、ボタンの色が変えてあったり。あれはおかしいよなあ。
西:
第2ボタンだけ色違いとかね。やめてほしいわ。
河毛:
イタリアのシャツに、ドゥエ・ボットーニといって、首元のボタンが横に2個あるタイプがあるけど、クラシコイタリアが人気だった時代、ボタン穴のかがり糸が色付きというのを見て、本当にやめてほしいと思った。でも最初にそれを流行らせたのは実はエルメスなんだけど。他にも袖口が金のセリエボタンだとか、妙に小さい襟のボタンダウンとか、着ていると詐欺師に見える(笑)。
西:
今はポール・スミスの十八番よね。男性は女性以上に「お前、そのかがり糸が赤なんだな、そういう生き方なんだな」って思われちゃう(笑)。ファッションそのものがそうなんだけど、シャツにもその人が正直に出てしまうということね。
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
春らしい、色鮮やかな河毛さんのコーデ。シャツとパンツはラルフローレン。スウェットはCABaN、マフラーはマルセルラサンス。
河毛さんの思う日本一白シャツが似合う男は、小津安二郎監督。オーミヤシャツ(現在は閉店)で誂えていたと言われる。
: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :
0コメント