#M015 今、カッコいいコートは日本ブランドで探せ!


西 ゆり子(以下、西):
今日はいきなり失敗談から始めていいですか(笑)? 展示会で注文した新作のコートが届いたんですが、シッカリ出来すぎていて、なんとボタンをはずすのに悪戦苦闘。たまたま届く直前に熱を出したので、体力が落ちてるせいにしたかったけど、いやいやボタンの固さがカベになって絶対クローゼットの肥やしだわ……と思って「軽いコートと交換していただけますか?」とお聞きしたら、受注発注だったらしく、涙を呑んで返品しました。デザインは最高だったんですけどね。堅くて重いコートを、来年、再来年の私が着るのか? といったらやっぱり敬遠してしまう。というわけで今年のコートは振り出しに戻っちゃった。河毛さん、もう何か見つけました?

河毛俊作(以下、河毛):
まだ手元には届いていませんが、COMOLIのグレーのダブルのチェスターフィールドコートを買いました。

西:
ダブルのチェスター! いいですね。

河毛:
たしか素材はカシミアです。チェスターと言いながら、COMOLIらしく軽くてソフトなのがいいと思って。かっちりとはしてないけれど、基本的なテイラードのところはきちんとしていて、バランスがいい。最近芸能界にもファンが多いようですよ。

西:
ふむふむ。

河毛:
今まで持っていた「重い、堅い」は捨てないけど、この先ずっしりしたものを増やすことはないでしょうね。それでも、前回話したクロムハーツのライダースは、年に1~2回は着ますけど。まあ、それで充分だからそれ以上は増やさない。でも、男の人は50代くらいまでは多少の重さを感じても、しっかりしたアウターを着ている方が素敵には見えますね。

西:
それは同感。

河毛:
‘00年代から’10年代半ば頃まで、コートはずっとタイトで、アームホールがきゅっと内側に入っていたから、ジャケットが中に着られないチェスターフィールドコートも珍しくなかった。

西:
ディオールオムとかね。ものすごくすっきり見えて一世風靡しました。

河毛:
あれはあれでよかったですよね。でも、どの服もそうだけど、身体に合っている範囲をこえてタイトになると、気持ち悪い。特に男の場合。今買うならタイト過ぎない方がいいですね。

西:
それは同感。

河毛:
余談だけど、ラグランスリーブはコート屋さんしかできないらしいですね。普通のテイラーでラグランスリーブのオーダーというのはできないそうです。

西:
そうなんですか! ワンサイズ大きくても小さくてもそんなに影響がなく自分のシルエットに添ってくれるイメージだけど、逆に的が絞りにくい?

河毛:
テイラーのコートは、100%セットインだと知って、面白いなと思って。最近は肩回りにそれなりに余裕がありますけど。

西:
サンローランとかバレンシアガとか、ハイブランドだけの特殊事情かもしれませんが、ここのところジャケットの肩が強調されていますから、コートにも影響がありますね。

河毛:
70年代のフレンチファッションみたいに、ちょっとコンケーブ(弓なり)のショルダーで、腰をすごく絞ってあって丈は長めで。昔のサンローランを思いだすような。

西:
流行は繰り返しますね。コートも同じ。ピーコート、チェスターフィールドコート、ダッフルコート。トレンチ、ステンカラーも毎年出るけど、必ずどれかが突出して人気になるのが不思議。

河毛:
それで言えば今年はピーコートが目につきます。ピーコートをそのまま長くしてロングコートにしたようなデザインも流行っていて、なかなかいいなと思います。

西:
各展示会、相当な数出てました。ピーコートは、多すぎて選びにくいけど、迷ったら一度は老舗のものを着ると、自分なりの基準が育つ。

河毛:
原型は軍ものなので、若い人の一着めなら放出品のピーコートでいいんじゃないでしょうか。かえって探しにくければ、老舗セレクトショップ、たとえばビームスやユナイテッドアローズもスタンダードでいいものがある。

西:
確かにそうですね。メンズのアローズをあまり見たことがなかったけど、いつぞや河毛さんについてお店に行った時、いい発見があってすごく勉強になりました。河毛さんはピーコートは何着どこのをお持ちですか?

河毛:
ピーコートは2着で、1着は完全なピーコートと言うより〝ピーコート的な″数年前のグッチで、ややシェイプされたシルエットのもの。もう一着はビズビムです。

西:
私は、もちろん所有はしたことありますが、残念ながら自分の雰囲気にジャストではないのと、正統派のピーコートほど衿が大きくて、それがあんまり似合わなかった。

河毛:
衿がデカくないと防寒の役に立たないからね。

西:
衿を立てたり色々やってみたけど納得いかず早々に離脱しました。

河毛:
でも、ファッションの対談でこう言うのもなんですが、正直今は無理をしてまでメゾンブランドの服を買う必要がない時代かも。

西:
アハハハ。でも、日本のブランドはなかなか手がかりが難しい。私は仕事柄、みんなが「カワイイ!」と盛り上がっていても、(これは重さがネックかも)とかある程度ジャッジできるけど、人によっては(この重さに立ち向かうのが価値観なのか?)みたいに心がゆらぐのも理解はできます。

河毛:
質と価格のバランスは大事だと思います。「EDIFITH」にいた人がやっているベイクルーズ系の「L’ CHOPPE」(レショップ)は読者にすすめたいですね。青山の「キルフェボン」の近くが本店で、渋谷のMiyashita Parkにもお店があります。シャツとかスウェットの微妙なサイズ感だったりに、ここならではのこだわりがある。コートもマッキントッシュやラベンハムと組んで作っていたりします。何よりここのオリジナルはクオリティに対して値段がやさしいので。あとはコートのブランドだったら、中込憲太郎さんのコヒーレンス。安くはないけれど、海外ブランドの半分くらいの価格でとても素敵なものがあります。

西:
メモメモ(笑)! 価格と質のバランスを見きわめる目があるのが素晴らしい! さすが百戦錬磨の河毛さん。こうやってお聞きできると、「着る学校」の生徒さんやパートナーも行ってみようと思えますよね。すごくいいと思う。

河毛:
日本の服作りの人たちのレベルがものすごく上がってるからね。特にメンズはそうです。

西:
女性ものも、サポートサーフェスなんか私は何着もアーカイブしていますが、年月が経っても古びないニュアンスのあるデザインで好きですね。

河毛:
今年も女性物のコートは丈長ですか。

西:
丈長傾向は続いてると思います。去年ほどではないけど。丈長と言えば、ザ・ロウも熱烈なファンがいるブランドですよね。

河毛:
あそこのものは、どこか‘80年代前半の服を本歌としている気がする。そう考えると、乱暴だけど同じ高額ならアルマーニ? とも思う。

西:
確かにアルマーニには昔からああいうデザインがたくさんありましたね。そのせいかしら、ザ・ロウは気になるブランドではあるけどあと一歩の決心がなかなかつかなくて。

河毛:
アルマーニにコムデギャルソンをかけあわせて高級なイメージに持って行った印象もある。ヘンな話、誰かが服を買ってくれるとしたら、令和5年の今、結局アルマーニと答えますね。最近、あらためて底力を感じる。遠目で見ても良さがわかるというか。

西:
落ち感もきれいだし、お値段にうなずける素材とラインですよね。

河毛:
でも、身も蓋もない話をすれば、今はみんないつでもどこでもダウンコートでいいという時代になりました。

西:
温暖化の今日この頃ごろだから、何が何でも毎年新しいダウンを、と思わなくなりました。でも去年買ったマメクロゴウチの、羽毛じゃないパファーコートがよかったので、もしもそれを上回るものと遭遇しなければ、この冬は引き続き〝マメゴウチ″します。

河毛:
最近、夜の外出でも女性が毛皮のコートって着なくなったけど、ドレスで出かける時コートはどうしてるんだろう。

西:
パーティなら、ダブルフェイスのローブ風な、洋服の袖に関係なくふわっと羽織れるコートを一つ持つといいかも。ドラマティックですしね。

河毛:
もし、惚れ惚れするようなコート姿の手本が見たい場合はぜひ『仁義』という映画を見てほしいですね。アラン・ドロン、イヴ・モンタン、ジャン・マリア・ヴォロンテ、フランソワ・ペリエ・ブールヴィル。この4人の主要キャストが皆トレンチコートを着ているんだけど、キャラクターによってベージュやカーキの色とかデザインがそれぞれ微妙に違う。この映画の中のイヴ・モンタンのおしゃれ具合が自分の中では最高峰、ザ・フレンチクラシックですね。おそらくこの時代は監督が衣裳にかなり意見を出していたと思いますが。イヴ・モンタンやジャンポール・ベルモンドの着こなしを見たら、「すいませんでした!」と言いたくなる。

西:
私も『仁義』を見るわ。見てからあらためて今季のコートを見つけに行こう!

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<河毛さん>
ゲンズブールを描いたスウェットは、青山学院西門通りの「Godard Haberdashery」(ゴダール ハバダッシェリー)で。ポロシャツはラコステ、ジーンズはナイジェル・ケーボン。羽織ったThe CLASSIKのジャケットは、気楽でありながら仕立てにこだわりが感じられる。Clarksのデザートブーツは、着脱を考えて少しオーバーサイズなので、厚手のHealth Knitのスケートソックスを合わせている。腕時計はカルティエ。

<西さん>
ワンピースは、板谷由夏さんのブランドSINMEのもの。今日は仕事で服を見ていたので袖をひと折りしていますが、本来は今風にカフスが長めのつくり。素材も上質で気に入っている。靴はVEGE。

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着る学校(校長・西ゆり子)

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